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「ウォーホルのキャンプ」と「クーンズのキッチュ」 ジェフリー・ダイチ 

BT4月号の「ポップ・アート特集」とBT10月号の「ジェフ・クーンズ特集」を比べると面白い。編集長の岩渕貞哉は「ポップ・アート特集」は楠見清に任せて、書き手は日本人ばかりだが、「ジェフ・クーンズ特集」の方は、評論インタビューなど英語からの翻訳だ。そのためか、ポップ・アート特集は難解なのに比べて、ジェフ・クーンズ特集は非常に分かりやすい。それまでクーンズは勿論のこと、ウォーホルのポップも本当のところ理解できなかったのだが、この特集号を読んで、日本のポップを巡る現代美術の混乱の理由が分かってきたような気がする。

なかでも、クーンズの友でもありアート・アドバイザーでもあるジェフリー・ダイチのインタビューは説得的だ。楠見清はポップ・アートは見た目より、思想やコンセプトが重要だというのだが、ダイチはそんな表象文化論的な事は言わない。そもそも、クーンズ自身が、「僕の作品をはじめて見た人は、作品の中にアイロニーを見るに違いない……でも、僕にはそんなものは見えない。アイロニーとはとてつもなく批評的な観賞を生むものだ」(jp.wiki 出典不明)と言っている。

ダイチはウォーホルとクーンズに共通するものとして「芸術文化と大衆文化の関係性」をあげている。まず、ウォーホルにはキャンプな表現があるという。キャンプは、珍しいものと大量生産品とを区別せず、複製に対する嫌悪感を超越すると、スーザン・ソンタグは言う。さらに、キャンプが「大衆文化時代のダンディイズム」だというところは、まさに芸術家ウォーホルにピッタリではないか。自動車事故は現代の文化的出来事であり、マリリン・モンローや毛沢東などのスターの選択にも「悪趣味に関する良い趣味」が感じられる。

一方クーンズが取り上げるのは一般家庭にある美的価値の無いキッチュだとダイチは言う。初期においては《空気ビニール玩具》や新品の《電気製品》、《広告ポスター》など、どちらかと言えば、安価なレディ・メイドだった。次第に、ポーセリンの人形や風船動物の飾りなど、同じキッチュだが、素材を変えて大きくて重くて制作費もかかるオブジェを制作するようになる。もはやそれはどこにでもある安価な大量生産品ではなく、重くて大きくて少数生産の高価なオブジェである。それは高価だから、誰でも買うことは出来ないし、一般家庭に飾ることは無理だが、キッチュは相変わらずキッチュのままだ。キッチュを楽しむために、キャンプのような特殊な趣味や態度はいらない。褒め言葉の「クダラナイ」も無用だ。普通の人々が誰でも楽しむことができる「芸術」なのだ。

《Cat on a clothes line》は物干しに吊るされた毛糸の靴下から子猫が首と手を出している。これをあるアメリカの評論家()が「攻撃的なほど男根主義的でもあり、無垢でもある」(at once aggressively phallic and innocent)と日本人の好きそうな表象文化論的なことを言っているけれど、大袈裟な、なんにでも性的な隠喩を読み込むのは表象文化論の悪癖だ。一般家庭の普通の人々に聞いてみれば、アメリカ人でも日本人でもみんな「可愛い!」と言うだろう。ためしに、本屋のペットコーナーで猫の写真集を覗いてみれば、同じような可愛い猫であふれている。

会田誠は「キャンプ・タイプ」で、村上隆は「キッチュ・タイプ」と言えるのではないか。どちらもまだウォーホルやクーンズには遠くおよばないけれど。




スレッド:art・芸術・美術 / ジャンル:学問・文化・芸術

2014.10.23[Thu] Post 13:46  CO:0  TB:0  ジェフ・クーンズ  Top▲

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