大竹伸朗(2)
浅田彰の大竹伸朗評(『美術手帖』12月号)
大竹はロックだから解説は書けないという「卑怯な逃げ口上」で、『大竹伸朗全景』展のカタログ・エッセイを断ったと、浅田自身が『美術手帖』で書いていたことは、前回書いた。 あらためて、浅田の大竹伸朗評を読んだら、なんとタイトルが『誰が大竹伸朗を語れるか』となっている。これは、大竹の〈凄さ〉を賞賛するレトリックだと承知してはいるが、じつは、巧みな自己弁解ではないのか。書けないのは俺だけではない、誰も大竹については書けない、それは大竹が巨大すぎるからだ、というわけだ。逃げ口上というより、開き直りだ。 それなら、こんなレトリック満載の文を綴っているのでなく、大竹の巨大さについて、少しでも鑑賞に役立つ具体的な分析をしてくれればいいと思うのだが、そうはしない。浅田のレトリックは続く。「・・・この小文は、私の率直な敗北宣言以外の何ものでもない」と。 浅田彰が芸術を理解しているかどうかわからないが、頭が良いことは確かだ。「卑怯な逃げ口上」「誰が大竹伸朗を語れるか」「敗北宣言以外の何ものでもない」、これらはどれも使い古された文句だが、浅田が使うと、なんか真実味のあるレトリックに思えてくることは認めないわけにはいかない。(こんな浅田に正面から突っかかっていった上田高弘はえらい) そんなことより、浅田の大竹評の中味をみてみよう。浅田自身が認めているように大したことはいっていないのだが、一つだけ、私に理解できない点がある。それは、大竹が画家でも彫刻家でもなくジャンク・アーティストだという主張だ。実際にジャンクやスクラップを利用しているのだから、ジャンク・アーティストには違いない。そこまではいい。しかし、そのあとが分からない。浅田は言う「アーティスト(大竹)が絵画としての完成度や彫刻としての完成度などといった些細な問題にほとんど関心を持っていないことは明らかだ」と。さらに言う「何でもうまくフレーム(額縁という具体的フレームから美術館という制度的フレームにいたるまで)に入れて提示すれば芸術作品として流通させられるという、アーティストを装ったデザイナーや戦略家のシニカルな手口が、そこに皆無なのである」と。大竹がデザイナーでも戦略家でもないことは認めよう。しかし、大竹には船の廃材で作ったフレームだけの作品もあるのだけれど、もちろん、こんなリテラルなことを浅田が言うはずもないから、おそらく、この主張は、絵画と彫刻のジャンル分けの無効性とか美術史や美術館制度を脱構築するというポストモダン風の決まり文句を使っただけなのだろう。しかし、どちらにしろ、大竹はそんなものとは関わりのない、正統的なモダニストの後継者ではないか。「モダニズム」という言葉が適当なのかどうかは判らないが、かれは、つねに絵画の真理を探究しているように私には思える。 わたしは、最初はポップとかダダとか、あるいはコンセプチャル・アートといったキーワードで『全景』展を見始めたのだが、次第に、これはまっとうな美術だと思い始めた。たとえば、かれの作品はどれも線や構図や色に注意深い配慮がなされている。それだけではない。かれは、四角い平面に執着しているように思える。立体作品を作っても、それが平面のイルージョンに見えるようにしているふしがある。キャンバスに船の廃材をくっつけた作品は、まるでその廃材がキャンバスに描かれた図像のように見える。これは、立体が平面に見えるという逆さのイルージョニズムではないのか。 フレームかどうかわからないが、大竹が作品の最終的な形にこだわりをもっていることは、スクラップ・ブックを見ればわかる。スクラップしたものを袋に入れていてはダメだ。それを四角い平面を綴ったスクラップ・ブックにどうしても貼り付けなけれ気が済まない。そしてそれを絵画にするために、その上から何かを描きくわえるのだ。大竹は、切り抜いた紫電改を紙に貼り、そこに回転するプロペラを描きくわえたときの感動を「ものすごい衝撃波」と表現している。それ以来、大竹は〈図像〉というものに取り憑かれているのではないか。 これは、前回、まったくの予備知識なく『全景』展を見たときの漠然とした印象であり、本当のところは判らない。もう一度、見に行くつもりだが、大竹伸朗が図像破壊者でないことだけは、確かなことと思われる。 このような誤解は浅田だけではなく、私が読んだ大竹評にほぼ共通しているのだが、もっとも酷いのは、ユリイカのインタビュー記事『世界を貼り倒せ!』の聞き手永江朗である。次回はそのことについて。 TRACKBACK
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