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もとは美術展評のブログ 絵画と映画と小説と、そして哲学を少々

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『青田真也 Shinya Aota』 (青山|目黒)

ギャラリー『青山|目黒』の案内メールで青田真也を知った。普段はあまり案内状を熱心に見ないのだが、今回は、添付してあった写真を見て、興味を持った。

HPの写真をまず見てください。

青田真也

下の写真は、近頃、よくあるインスタレーションだ。田中功起のテーブルトップの作品にも、サッカーボールをテーブルの上に一つ置いた作品があったけれど、インスタレーションというものは、取立て面白いものではない。

ところが、上の静物画風の写真はどこかヘンなのだ。理由もなく胸騒ぎがする。全体にモヤッとして、ソフトフォーカスのような気がするけれど、ピントが合っている。壁が白く陰影がなく、露出オーバーのような気がするけれど、そうではなく、将棋の駒やママレモン、漫画雑誌の文字やラベルが剥がされているからそう見えるだけだ。

なによりも、レコード盤やママレモンの表面の反射がなく、マットなのは、一種のピクトリアリズムのようだ。全体に実在感が希薄で、事物が図像化している。中でも一番絵のように見えるのは蚊取線香だ。

絵のように見えるということは、この写真がピクトリアリズムだということではなく、個々の被写体そのものが図像になっているということだ。もちろんこれが写真だということもある。けれど、立体を写真にとっても立体に見えるのだから、この写真の被写体が図像に見えるのは、写真だということだけではなく、個々の立体作品自体の質が問題になっている。

案内状の解説に、「今回展示するのは既製品を用いた立体のシリーズです。全ての素材の表層全体が薄く数ミリほど削られ、それらが元々「~である」という証拠であるはずの情報が剥がされています。」とある。なるほど、それで作品の表面がマットで、光の映り込みがない。

ギャラリーに行って実物をみた。予想通り素晴らしかった。写真(picture)が絵(picture)に見えても、ある意味で当たり前なことだが、三次元の立体が絵に見えるのだ。

ひと通り見て、一番、絵画的に見えたのはポリエチレン製(?)の黄色いバットだった。地球儀もいいのだが、台座が少しジャマになった。サッカー・ボールは縫い目や模様が少し残っている。それに比べると、バットは丸い棒で、白い壁を背景にして、陰影もほとんどない。頭が少しぐらい動いても、絵に描いたバットと同じように、見え方に変化がない。そういうわけで立体のバットが絵に見えるのだ。

表層を数ミリ削るということは、ラベルや表面の情報を剥がすことでもあるが、頭を動かしたり、見る位置を少しぐらい移動させても、文字や模様がなく、色彩が一様なので、絵と同じように、それほどの変化が生じない。

さらに重要なことは、削ることで表面をマットにすることだ。光の反射や映り込みをなくし、立体感を除去することだ。たとえば、ジェフ・クーンズの《風船プードル》は表面が金属光沢なので、鮮明な映り込みがあり、観者の動きに連動して映り込みの映像の箇所が移動する。そのことで、表面が球面であることが強調されてしまう。

青田の作品が、立体を平面にすることなら、もともと平面の表面を削ってもあまり意味がないことになる。実際に地図の表面を削った作品があったが、面白いイリュージョンは現れない。このことで、思い出すのは、ラウシェンバーグがデ・クーニングのデサンを消しゴムで消した作品である。これは、「抽象表現主義」という父親を殺す儀式だったということらしいが、そんな精神分析的な解釈をするまでもなく、絵画が絵画であるためのイリュージョンを消しゴムで消して、ただの矩形の紙にしたコンセプチャルなミニマリズムと考えるのが妥当な解釈であろう。ラウシェンバーグがその後、制作した《コンバイン絵画》は事物を使った立体絵画で、もちろん立体はイリュージョンを持たない。

《地図》の隣に、壁のペンキをキャンバスの矩形に剥がして、合板のボードをむき出しにした作品があった。グリーンバーグが白いキャンバスでも壁に掛ければ、絵になると言ったことを踏まえれば、この作品は、白い下塗りの絵具を剥がして支持体の生地をむき出しにして、一切のイリュージョンの余地を排除した究極のミニマル絵画といえる。

そもそも、彫刻は絵画に比べてイリュージョンを持ちにくいメデュウムだ。立体では、キネステーゼ(運動感覚)が作用するので、どうしても知覚意識が働く。それは、観者の身体空間と作品空間が連続しているからだ。彫刻のイリュージョンを見るためには、照明とか囲いとか、何らかの手段で、作品空間と身体空間を切り離して、観者は自分の身体のことを忘れて、作品に没入しなければならない。

没入しなくても、イリュージョンが見えるのは、これまでこの「美術展評」で見てきた作品の中では、ジャコメッティぐらいで、なかでも《四つの小像》は傑作と言える。ブロク記事『ロスコとジャコメッティ』から引用する。

立体のイリュージョンについては、没頭しなくても像主題が容易に見えるのはジコメッティの『四つの小像』です。あれはほんとうにマッチ棒のように小さい像でしたが、自分の知覚的身体を消去しなくても、ふつうにみれば、そこにミニチュアではなく、等身大の人間が現れます。まさに三層構造なのです。これは、簡単なことです。小像がミニチュアではなく、遠くにいる人物に見えると言うことです。現実の知覚でも、遠くに小さく見える人物はちゃんと等身大に見えるでしょう。これはもちろん遠近法という知覚世界の構造があるからで、像ではなく、通常の知覚です。しかし、ジャコメッティの小像は違います。小像は遠くではなく目の前にあるのです。だから像客観(Bildobjekt)は小さく見えます。そして、像主題は等身大に見えます。

小像のBildsujetが大きく見えるのは、二つの理由があります。一つは、遠方からみたようにボリュームがなく、かつ滲んだように細部が省略されていること、もう一つは、小像は一つではなく、四つ並べているということです。これで、お互いどうしが大きさの尺度(人間は万物の尺度です)になって、等身大の人間(像主題)があらわれるのです。


そして、別の方法だが、イリュージョンが容易に現れる立体は、青田真也の作品だ。

以上、フォーマリズムの立場で青田真也を分析した。しかし、もうひとつ別の解釈がある。それは、案内メールの解説に手際よくまとめられているので、引用する。

限りなく原型に近いにもかかわらず、肝心の手がかかりがごっそりと抜け落ちたそれらの立体からは、以前に一度会ったのは間違いないのに、どこでお会いしたのか、ついぞ名前が出てこない人に突然再会したのにも似た経験をします。
そして何よりも、凡庸な日用品達の薄皮一枚の下には、眩い色味や豊かな質の機微に溢れていて、既視感と常に背中合わせでありながら、他にはない視覚体験を提示しています。


ニョウボも《ドラえもん》を見て、子供の部屋に転がっていたドラえもんの「不随的記憶」が蘇ったと言っていたけれど、それはおそらくは、削っていないドラえもんでは蘇らなかった記憶なのだろう。それは、何よりも、立体が絵になる(図像化)という事があるからこその想起なのだ。

既視感ということであれば、田中功起にもある。両者の既視感の背後には日常性が横たわっているようだけれど、芸術文化論よりも、まずは重要なフォーマリズムの分析を試みた。芸術文化論についてはいずれ論じたい。



PS:『青田真也 Shinya Aota展』はギャラリー『青山|目黒』で12月27日まで開催しています。今年の見た展覧会では一番面白かった展覧会です。『カンディンスキーと青騎士展』と『青田真也展』は是非みてください。


青田 真也:Shinya Aota

2010.11.27.sat - 12.27.mon

青山|目黒 東京都目黒区上目黒2-30-6

※ open : 11:00 - 20:00 close : 日,祝 

行くなら昼間がいいでしょう。ギャラリーの正面はガラス張りで、光が充満して作品の陰影が薄くなります。





2010.12.21[Tue] Post 01:07  CO:0  TB:0  青田真也  Top▲

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