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『桑久保徹』②補遺:絵画の解体

『桑久保徹』ARTIST FILE 2010(国立新美術館)①からの続き

『桑久保徹』①で気付かなかったことがある。大きな壺の絵に小さな人物が描かれているので、いったい壺が巨大なのか、人物が妖精なのか、視線がまごつくと書いたけれど、これは観者と作品の距離をコントロールするための桑久保の仕掛けたトリックだ。壺は大きく描かれているので観者は離れて見る。すると人物は小さいので良く見えないので、近寄って細部を見ようとする。そうなると、今度は知覚が作動し物質的な絵具が現れて、かわりに絵画的なイリュージョンが後退する。

このことは、「湖」のシリーズについても言える。近景中景遠景の風景を見渡すには離れてみなければならない。離れてみると空間の広がりが見えるけれど、その空間の中に描かれている小さな事物は色の切片のように散らばって、キャンバス表面に浮いてみえる。何が描かれているのか近づいてみると、絵具の盛り上がりが現れて、物理的絵画の知覚が顕在化する。

見る距離によって、作品の見え方が違う絵画に点描法絵画がある。例えば、スーラの絵画は離れて見れば主題や奥行きが見えるけれど、近づけば文字通り色彩の点に解体してしまう。スーラの絵は鑑賞するための適当な(正しい)距離がある。桑久保の作品も近くでみるときと離れてみるときでは違って見える。しかし、桑久保の作品は、『桑久保徹』①で述べたように、どちらが「正しい」距離とは言えない。どちらも安定した絵画的イリュージョンが画面に統一を与えてくれるわけではない。

会田誠の《灰色の山》は、離れてみれば灰色の山で、近づけば細部の粗大ごみが見えるという昔からあるイラストレーションの手法であり、桑久保の「メタ絵画」の手法とは異なる。

絵画を見るということは、まず、物理的絵画を知覚し、その知覚したものを、そこに存在するものとして措定せずに、中和変容する。知覚したものを想像したものの如く受け取るのが絵画を見るということ、すなわち図像意識とは知覚意識に基づいた想像意識ということだ。スーラの絵は近づいて見れば、知覚意識が強まり、離れてみれば図像意識が強まる。ところが桑久保の絵は近づいても離れても、知覚と想像が争って、バラバラに見えるのだ。

桑久保が意図的に「絵画の解体」を目論んだとすれば、それはなかば成功したと言える。大きなキャンバスなら遠くから見なければならない。その中に小さい事物が描かれてあれば、近づいて見なければならない。近づけば盛り上げた絵具が見える。離れれてみれば、小さな事物はキャンバスの表面に散らばって見える。そして絵画はばらばらになって解体する。

この解体した絵画を離れてみれば抽象画に見える。それならば、桑久保の「湖の風景」はデ・クーニングの『女』と同じように「帰する場所なき再現性」として、抽象的役割も果たしていることになる。もちろんこの「再現性との戯れ」(グリーンバーグ)が目下のところ成功しているとは思われないけれど、会田誠の《1+1=2》の再現性との戯れよりも、可能性を秘めていることは間違いないだろう。刮目して待て。

2010.05.30[Sun] Post 23:45  CO:0  TB:0  -桑久保徹  Top▲

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