町田久美(2)
町田久美にはちょっと失望した。
![]() といっても、そんな大袈裟なことではなく、前回、西村画廊での町田久美展評で書いたリトグラフ商法のおそれが、なかば現実のものになったということである。 http://petapetahirahira.blog50.fc2.com/blog-entry-45.html * 今回の展覧会は西村画廊が扱う人気作家を集めた展覧会と言うことで、個展をしたばかりの町田久美の新作は『会議』一点だけで、もう一点は旧作をスキャンして、(おそらくエプソンの顔料を使った)プリンターで出力したものに、エディション・ナンバーとサインをしたものが展示してあった。コンパクトの彩色は筆でしている。
限定10枚で価格10万円、ヘルメットを被った、後ろ向きの女の子が手にコンパクトを持っている作品『装置』だ。 これが高いのか安いのかわからない。紙は雪肌麻紙だし、インクは染料ではなく顔料(pigment)だから墨と同じように劣化しにくいだろう。それにスキャナーもプリンターも高解像度なのだから、オリジナルとほとんで区別出来ないし、そもそも町田の絵は筆跡(フデアト)のない墨の線描だから、複製が容易な作品なのだ。 しかも、画家本人が、自分の目で見て、これは自分の作品だとサインいているのだから、鑑賞するのに何んの不都合もない。 美的鑑賞に関してオリジナルとコピーが何んの差もないとしたら、その値段の違いはどう説明すればよいのだろう。 もちろん、スキャンをその都度繰りかえせば、次第にノイズが増えていき、しまいにオリジナルとコピーはまったく違うモノになるだろう。しかし、デジタルなデータとして保存され、それをバックアップしておけば、永久に同じモノが作れることになる。 写真は、例えば、アンセル・アダムスのプリントのように、ネガからプリントされるときに、オリジナリティーがうまれる。エッチングやリトグラフもそうだ。 それが最終的な作品だから、それにエディション・ナンバーをつけてサインする。良心的ならば、ネガや版を破棄するだろう。それでこそ、プリントされたものがオリジナルなる。 ところが、この『装置』は、もともとオリジナルがあって、それをスキャン・プリントアウトしたものだから、完全にコピーである。複製品である。オリジナルを破棄すれば、それは複製品ではなく、コンピュータを使ったアートということになるかもしれないし、フォト・ショップで加工してあれば、なおさらアートと言い張ることも出来るだろう。 しかし、これはオリジナルはそのまま残っているし、複製ともポスターとも書いていない。もちろんエディション・ナンバーが書いてあるのだから、プリントだということはわかるのだけれど、どこか釈然としないモノが残る。 画像としての権利は誰が持っているのだろう。オリジナルの所有者が同意したのだろが、アメリカなどでは、所有者と版権は別だと聞いているが、どうなのだろう。 もちろん、これが悪質なリトフラフ商法だとは思わないし、町田久美がサインで保証するのだが、本当に10枚限定で10万円なら、町田ファンにとっては、横尾忠則の天井桟敷のポスターは百万円近くの値段が付いていることを考えれば、そんなに高いモノではないのだろう。(もちろん町田久美がこれからどうなるか判らないが) いずれにしろ、オリジナルの所有者が複製に同意したのは、そのことによって、オリジナルの価値が下がるのではなく、より高まるのだと思っているからだ。 『複製技術時代の芸術作品』を書いたベンヤミンの予想は完全に間違っていたのだ。複製品によって、オリジナルのアウラがなくなるどころか、ますます輝いてくるのだ。 だとしても、タレントが宣伝ポスターにサインしたようで、どうも納得できないことではある。 (以前にも西村画廊は町田久美の「Betty」のデジタルプリントをやっている。またリトグラフはちゃんと自分で版を作っているようだ) それより、町田久美のこれからがどうなるか、依然としてわからない。新作は一点だけ出品されていたが、悪い予感がする。前回の個展の作品にわたしは「触覚的ナルシズム」を見たのだが、今回の作品には、エロティックなものも不可思議なものも見つけることはできない。手慣れた感じのイラストで、線からも無気味なものが消えている。 わたしは町田久美に期待しすぎたようだ。前回の個展の作品が特別だったようで、それ以前の作品をネットで見ると、刺青をしたキューピーなどがあって、近頃の福助のキャラクターと考えあわせると、どうもジャポニスムを狙っているような気がする。 もちろん個展のあとだから、そんなに集中して制作する時間もなかったのだろうから、再度、次回の個展に期待することにする。
購入者から一言。プリントは雲肌麻紙ではなく洋紙に地の色を印刷してあるのだそうだ。手で彩色してあるのは爪の部分であってコンパクトではなかった。批評はともかく、こういう事を確認せずに書くのは如何なものかと。この作家の作風の変化を長い間見てきたが…貴殿には作品の制作年の確認と作家インタビューを一読されることをお勧めする。
Readerさん、ご指摘有り難うございます。さっそく訂正いたします。
これからも町田久美の作品を見ていきたいと思いますが、現在の評価は作家の言葉を聞いたからといって、変わるとは思いません。現代美術は技法メデュウム概念が重要なのは承知していますが。 TRACKBACK
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