『エコノミスト ミシュラン』田中秀臣・野口旭・若田部昌澄 バブルがはじけデフレ不況になったとき、財政政策が効果なく、そこで構造改革が出てきたようなきがするが、その構造改革も駄目だと否定する派が現れる。僕は漠然とした市場原理主義者なので、小泉の改革なくして成長なしという考えには賛成だった。 ところが、この本によると、構造改革派はマクロ経済主義に対立するミクロ経済主義であり、デフレ不況の解決にはならないというのだ。しかも、ここでいう構造改革とは規制緩和とか民営化ということではなく、日本的特殊性とかグローバル経済による中国からの安い商品の流入とか、あるいは資本主義の当然の帰結だ、貸しはがしだ、リストラだ、創造的破壊だなど、テレビで経済学者がさんざん言っていたことで、このような日本の特殊性の論争は、戦前の講座派と労農派の争いまでさかのぼると聞いて、ちょと懐かしくて笑ってしまった。 この日本的システムは素晴らしい派とダメだ派があるらしいが、どちらにしろ構造改革ではなくマクロ経済政策が必要であり、しかも、財政政策ではなく、金融政策を優先しなければならないという。そして、その金融政策も、金利や量的緩和だけではダメで、インフレターゲットを導入しなくては、デフレは脱却できないというのが、リフレ派の主張なのだ。 たしかに、構造改革も財政政策も金利政策も効果がなかった。財務省のドル買い円売りの為替介入に対する非不胎化介入で、実質的な量的緩和政策がおこなわれ、その効果なのか株価回復なども見られたが、デフレ脱却までには至らなかった。 いくらマネーサプライが増えても、インフレ期待がなく、実質金利が高いままなので、流動性の罠にはまり、投資も消費も増えない状態がつづいたというのだ。これは、インフレになると現金はババ抜き状態になって、できるだけ相手にとらせようとするけれど、デフレでは、その反対に現金で持っていた方が有利になるからだ。 日銀は量的緩和をしても、MV=PYのV、貨幣の流通速度が低下するので、デフレ対策にならないと言っているらしいが、このVは心理的なもので、物価の実際の上昇ではなく、インフレ予想だけでも人々の行動に影響を与えることが出来るということらしい。インフレ・ターゲットというのは心理的なものなのだ。 もちろん日銀はバブルやハイパー・インフレーションをおそれているのだが、リフレ政策というのは、公定歩合とマネーサプライで穏やかなインフレーションを保つことが出来るということであり、財務省の財政施策や為替政策と協調して、金融政策を行うなら、ハイパー・インフレーションをおそれることはない。 実際にはリフレ政策は採られていないので、これがうまくいくかどうかはもちろんわからない。しかし、リフレ派の主張によれば、失われた10年の問題を少なくとも頭の中ではよく理解できる。金子勝や榊原英資や森永卓郎や植草一秀などの、それから忘れてはいけないリチャード・クーや大前研一のテレビ・タレントの言うことで、頭の中がごちゃごちゃになっているが、これで少しスッキリした。 ひとつ、この本の欠点は、経済学者の考えをリフレ派と非リフレ派にわけて、非リフレ派をインフレ・ターゲットを理解していないからといって、すべて否定しているように見えることだ。インフレターゲットだって心理的なものだというのだから、とうぜんミクロの視点を無視してはどんな経済施策もなりたたないだろう。 とにかく、マクロの金融政策の重要性は理解した。日銀の役割も少しだけ理解した。新聞の読み方もかわった。先日、民主党は国民新党の反対によって、池尾和人の日銀審議委員の国会同意人事に反対すると報じられた。国民新党が反対するのには、池尾氏が郵政民営化を支持して居たからだが、民主党がこれまで池尾人事に賛成していたと言うことは、民主党が構造改革派で、インフレターゲットはもちろん、日銀の役割をあまり理解していないということではないか。(というより経済学をしっている人材が居ないのだ) この本には池尾氏の『銀行はなぜ変われないか』の評を高橋洋一氏が書いているが、その中で高橋氏は池尾氏を批判している。インフレ・ターゲッティングはなんとしてもインフレにしようとするのではないことは、そのインフレ目標政策を日本に提言したバーナキンやクルーグマンを読めば明らかなのに、池尾氏は、あたかもそういう俗流的な解釈(インフレターゲットはハイパーインフレが目標だ)があるかのように、インフレ・ターゲッティング批判をしている。しかし、池尾氏が明らかにしなければならないことは、本来の意味でのインフレターゲッティングに賛成なのか、反対なのか明確にすることだと高橋氏はいう。 そして、池尾氏が複雑系を持ち出しているのは、本来単純なインフレ・ターゲッティングの問題を、ごまかそうとしているとしかおもえない。たぶん日銀にすり寄っているのだろう。それにしても、なぜ、数少ないインフレ・ターゲッティング支持者の伊藤隆敏の日銀副総裁の同意人事が参院で否決されたのだろうか。日銀にリフレ派はひとりもいない。ここでも、日本の常識は世界の非常識ということか。
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Author: 安積 桂 カテゴリー最 近 の 記 事
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