ART TOUCH 絵画と映画と小説と

もとは美術展評のブログ 絵画と映画と小説と、そして哲学を少々

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--[--] Post --:--  CO:-  TB:-  スポンサー広告  Top▲

COMMENT

NAME

SUBJECT

BLOG/HP

PASSWORD

COMMENT

SECRET: ※非公開コメントにしたい場合はBOXにチェックをして下さい ⇒ 

SUBMIT: 送信 

TRACKBACK

スポンサーサイト のトラックバックアドレス
http://petapetahirahira.blog50.fc2.com/tb.php/237-1da951b7
 ⇒ この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

『ロスコ・ルーム』

『ロスコ・ルーム』のリニューアルは失敗か?

川村記念美術館に『マチスとボナール』展を見に行った。『ロスコ・ルーム』がリニューアルされ、『ニューマン・ルーム』があたらしくできていた。まず、『ロスコ・ルーム』の感想を述べる。

部屋に入ったとたん、以前とはまったく別の展示になっていたのに驚いた。これでは、学芸員がロスコの解釈を変えたとしか思えない。わたしは、新しい方が良いと思うのだが、ロスコ自身がこの『ロスコ・ルーム』をみたら、たぶん、怒りだすと思う。

『ロスコ・ルーム』の照明については以前書いたが、ロスコ自身が照明を暗くしてほしいと言っていたのは有名なはなしだ。そのことはともかく、Wikipediaにロスコの言葉が載っていたので、その一部を訳しておく。(訳はごまかしてあります。)


「 わたしは抽象画家ではない。形と色のあいだの関係に興味があるわけでもない。私に関心があるのは、悲劇や恍惚や運命などの人間の根元的な感情を表現することだ。」
「芸術家の役目は、もちろん、これまでずーっとイメージを作ることだったが、時代によって求められるイメージは異なっていた。こんにち、われわれの情熱は色あせ、ただ悪から逃げようと絶望的に試みるだけの狂った時代では、強迫的で、地底の標識のようなイメージ(our obsessive, subterranean and pictographic images)が、われわれの神経症的時代のまさにリアルな表現なのだ。わたしにとって、いわゆる抽象画と言われるものは、まったく抽象的(あいまい)なものではなく、その反対に、抽象とはわれわれの時代のリアリズムなのだ。」
「わたしの絵は大きくて色彩豊かで額縁がない、それに美術館の壁はたいていとてつもなく巨大なので、私の絵がその広い壁の中におかれると装飾的なものになってしまう。これは私の絵の意味を歪める。というのも、私の絵はintimate and intense(訳せない)であり、装飾的なものとは反対のものだからだ。」
「人々が私の絵を見て泣き崩れるのは、わたしが人間の根元的な感情をつたえているということであり、また、わたしの絵のまえで感動し涙を流す人たちはわたしがその絵を描いているときと同じ宗教的経験をしているということだ。もし、その感動が色彩の関係から生まれる(造形的抽象画のように:安積注)と言う人がいたら、それは思い違いというものだ。」


自分の絵がobsessive, subterranean and pictographicだとか、intimate and intenseだとかよくわからないことをいっているが、ようするにロスコは自分の絵がリンゴとか女神とか色と形の関係とかそういうものを表すようなふつうの絵ではないといってるのだ。そうは言っても、絵というのは知覚されるものだ。その知覚された物質的なものに基礎づけられて、像あるいはイリュージョンが生まれるのだ。ところがロスコはこの知覚される色や形や物質的なものを自分の絵画から閉め出そうとしている。

表現主義というのは作家の内面を目に見える形にする。ムンクは人物の表情で現代人の不安を表現した。カンディンスキーは色や形で生のリズムや喜びを表現した。そして、ロスコはより根元的な宗教的感情をあらわすために、目に見える図像や色や形をキャンバスから追放する。神が目に見えないように、ロスコの絵は目に見えない。

ロスコは明度差や色相差の少ない暗い色を塗る。それを暗い部屋に展示する。四角いキャンバスに四角い枠(グリッド)を描く。枠の輪郭はかすれ、ぼやけ、にじんでいる。枠はゆがみ、キャンバスの重心からはずれている。それは不安定であり、かすかな動きをはらんでいる。視線はただ薄暗がりの中を曖昧に揺れる。そのうち、明度差も色相差もぼんやりとあらわれて、わたしたちの身体は部屋の暗がりに溶けていく。

ところが、あたらしいロスコ・ルームにはそんな曖昧さは消えている。部屋は以前より大きく、天井もいくぶん高くなったような気がする。絵と絵のあいだの白い壁が広くなり、ロスコがおそれたように、絵が壁の装飾になっている。照明はやや明るくなった気がするが、天井から壁に向かって下方に照らしているので、絵が下にいくほど暗くなり、キャンバスの影が絵の下にくっきりとできている。この黒い影は、ロスコの絵を壁画ではなく、イーゼル画にしてしまっている。

絵が額縁に納められていないので余計に、影が絵画の物理的層をあからさまにして、キャンバスは厚みのある四角い物体に見える。絵画の物質的表面を知覚するのは相変わらず難しいが、さらに、前後左右に動きながら絵を見ると、すこし光沢のある表面が照明を反射し、反対にマットな部分は光沢のある表面よりも沈み、あるいは浮かんで、知覚することができない。

あるいは、四角いキャンバスの中に四角いグリッドを描いて、図と地の関係を壊し、ついでに進出色と後退色の関係を曖昧にする。もちろんすでに述べたように明度差や色相差を小さくしたり、そのほかいろいろな知覚心理学の錯視やらを利用しているように思える。ロスコは絵画の物理的層をまともに知覚できないような手品を使って壁画を描いたのだ。(表面色と平面色についてはカタログの鈴木尊志の解説参照)

露骨に錯視を使った現代絵画はある。有名なのはオップ・アートだろうが、シーグラム壁画は単純な錯視ではない。いろいろな視覚現象を利用しているらしいが、その手品の仕掛けを、リニューアルされた『ロスコ・ルーム』は、一部だけれど、種明かししてくれる。

それなら、『ロスコ・ルーム』のリニューアルは失敗なのか。たしかに、聖なるものを世俗化したといえるかもしれないが、わたしにはこっちのロスコのほうが面白い。新旧両方の展示とも感動には少したりないが、リニューアルの部屋は、少しだけだが、手品の種明かしがされているぶん、感動とは言えないまでも、絵画の楽しみは増えている。良くできた手品は種明かしされてもやっぱり面白いものは面白いのだ。

もし、《シーグラム壁画》が人間の根元的な感情や宗教的体験を表しているとしたら、それは象徴作用によるのであり、絵画の三層構造によるのではない。象徴作用は、物理的層や図像客観や図像主題のそれぞれから生まれるのであって、絵画本来の三層構造の緊張関係からうまれるのではない。たとえば崇高という感情は、ニューマンのカラー・フィールドにも、マレーヴィッチのシュプレマティズムにも、フリードリッヒの風景画にも、在ると言えばある。しかし、それが絵画として面白いかどうかはまた別のことだ。

ロスコの《シーグラム壁画》はニューマンの《アンナの光》とは異なった方法で、絵画の知覚構造を解体し、絵具と色彩と形を媒介に宗教的体験を表現し得たといえるのかもしれない。しかし、それは絵画の知覚を犠牲にした一種の神秘的体験ではないのか。吾見る故に吾在り、知覚が解体したとき、われわれの主観は解体し、世界が崩壊してしまうのではないか。

一言で言うならば、《シーグラム壁画》には具象性が欠けている。東京都現代美術館(『マーク・ロスコ展』96年[注1])の明るいギャラリーで見たロスコは、はっきりと知覚できた。四角いキャンバスに描かれた四角い平面は、われわれが歩いて入っていける(グリーンバーグ)具体的な空間の広がりとなり、まるで天地創造によって誕生した広大な大地のように見えるのだ。

『ロスコ・ルーム』のリニューアルは失敗だったのか、それとも成功だったのか。もし、ロスコに宗教的体験を求めるなら、以前の狭く間接照明のロスコ・ルームが良かった。でも、ロスコ芸術の秘密をしるには、あたらしロスコ・ルームが役に立つはずだ。そして『ロスコ・ルーム』だけではなく、『ニューマン・ルーム』も併せて見れば、たぶん抽象表現主義からミニマル・アートへの現代芸術のキーワードである平面性や身体性や演劇性を理解するのにおおいに役立つだろう。

そういう意味で、川村美術館の今回の『ロスコ・ルーム』のリニューアルは成功だったといえるのではないか。

注1:カタログによるとシーグラム壁画も展示されていたらしいが記憶に残っていない。







2008.04.02[Wed] Post 23:02  CO:0  TB:0  美術展評  Top▲

COMMENT

NAME

SUBJECT

BLOG/HP

PASSWORD

COMMENT

SECRET: ※非公開コメントにしたい場合はBOXにチェックをして下さい ⇒ 

SUBMIT: 送信 

TRACKBACK

『ロスコ・ルーム』 のトラックバックアドレス
http://petapetahirahira.blog50.fc2.com/tb.php/237-1da951b7
 ⇒ この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

Log in*/RSS*】  Design 「AZ+」Plugin Template...  Page Top▲
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。