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マルレーネ・デュマス

「マルレーネ・デュマス   ブロークン・ホワイト」展(東京都現代美術館)

 五月二十三日の産経新聞の文化欄にヘンリー・ダーガー展といっしょにマルレーネ・デュマス展の展評が黒沢綾子署名で載っているのを見て驚いた。カットの写真が展覧会のタイトルにもなっている《ブロークン・ホワイト》なのだが、これはどう見たって、女のエクスタシーの表情だろう。もっと正確に言えば、男が女を凌辱している場面にしか見えない。おそらく黒沢綾子はジェンダーとかセクシュアリティーの視点から、カットにこの作品を選んだのだろうが、新聞にふさわしいものとは思えない。こんなことを言うと、おまえこそ差別意識があるからだと言われそうだが、こんな図像はすでに巷に溢れていて誰もが見飽きてしまったもので、たとえばマネのヌードが当時持っていたような挑発的なものはどこにもないように思えるが、それはともかく、マルレーネ・デュマスの面白さはジェンダーやPCというよりも、絵画による写真的なるものの模倣盗用にあるのではないか。
 写真が誕生したときから、画家は写真の再現描写を利用してきた。アングルはデッサンの補助にモデルの写真を使っていたし、ドラクロアやドガも写真を利用していたことはよくしられている。他方で、その写真的な再現性から離れていくモダニズム(グリーンバーグ)の流れが生まれた。彼等は、明暗描写から色彩へ、彫刻的なイリュージョンから平面性へと変わっていき、自然の再現をすべて捨てたあと、その反動としてポストモダンが生まれ、再び写真を利用するようになる。しかし、モダニズムを経たあと、絵画は再び写真的な明暗描写や彫刻的なイリュージョンにもどることはできない。写真をデッサンの補助手段にするのではなく、写真が写真であるところのものを絵画というメデュウムをとおして探求したのだ。フォト・リアリズムも、一見して写真的再現描写を利用しているように見えるが、けっしてそうではなく、階調性ばかりで輪郭線がないという写真の「アンリアル」な描写のパロディを作ったのだ。
 たぶん現代的な意味で写真を利用した最初の画家はフランシス・ベーコンだろう。かれは写真の瞬間性をブレや歪みや擦れを使って表現主義的な絵を描いた。また、ゲルハルト・リヒターはボケの手法を使って写真的リアリズムを追究し、ホックニーは写真的な瞬間のポートレイトを明暗ではなく線で描き、大竹伸朗もモノクロ写真の白黒の階調をそのまま模写したり、あるいは輪郭線をなぞって素描を描く。
 それならマルレーネ・デュマスは、写真の何をパスティッシュしたのだろう。
 マルレーネ・デュマス展の会場に入った瞬間、写真へのオマージュだと判る。WAKO WORKS OF ARTで見たリュック・タイマンスを思い出すが、かれよりずっと写真的である。ポートレイトは一瞬の表情をスナップしている。モノクロのイタズラ描きのような顔もあるが、どれも魅力的な一瞬だ。大胆な筆使いのように見えるが、よく見れば繊細なタッチである。しかし、写真的な明暗の描写がない。陰影もモデリングも写真的ではない。ただ、不意をおそわれたような一瞬の表情がスナップ写真なのだ。
 写真のリアリズムには、描写的リアリズムだけではなく、スナップ的リアリズムというべきものがある。たとえば、フェルメールの《青いターバンを巻いた少女》はスナップ的リアリズムで少女の一瞬の表情を捕らえている。
 デュマスの絵が写真に見えるのは、モデルがカメラの被写体になっているからだ。カメラを向けられ、巫山戯たり、気取ったり、睨んだりと、みんな写真で見たことがある表情なのだ。デュマスの絵はスーパー・リアリズムでもないし、ブレでもボケでもないけれど、表情が写真に撮られるときの一瞬の表情だから、写真に見えるのだ。(墨絵のような白黒のにじんだドローイングがあるけれど、これは写真のブレやボケには見えない)
 と言う具合になんとなく自分勝手な理屈を付けたのだが、近頃の写真を利用した絵画の氾濫には、なんとなく納得できない気持ちがあったので、展評を書かないでほっておいた。ところが、『美術手帖6月号』に載っていた長谷川繁の「マルレーネ・デュマスとオランダ絵画」を読んで展評を書く気になった。
 長谷川は、いま流行のジェンダーや人種問題ではなく、絵画的見地(筆触や色彩、構図、絵具遣い、絵肌)や美術史の視点からデュマスの技法を解明しているのだが、オランダの「集団肖像画」がデュマスに影響を与えたと言い、それを説明するために、フランス・ハルスの警備隊の集団肖像画とデュマスの《教師》の写真をならべて載せている。長谷川は、この担任と生徒22人のクラス写真を集団肖像画の影響だというのだが、たしかに、画家らしい鋭い指摘だが、正確にいうと、《教師》は集団肖像画ではなくて集合写真なのだ。同じだと言うかもしれないが、そうではない。集団肖像画は一人々々の肖像画を集めたものだが、集合写真は、ある時ある場所にみんなが集まった記念として、いっしょに並んで写真機の方を見て撮ったものだ。肖像画のようにいろいろなポーズをとってはいない。みんな正面を見なければならない。手は重ねて、足首は組んでいる。目だけ余所見をしている生徒もいる。女教師はすこし左を向いて、目だけカメラを盗み見ている。
 集合写真は集団肖像画ではない、一瞬を切り取ったスナップ写真だ。もちろんすべての写真はスナップ写真なのだが、ようするに、写真機が発明されてはじめて集合写真という習慣がうまれたのだ。デュマスはこの集合写真の儀式性を見抜き、それを記号化することにより、写真のリアリズムと絵画の表現主義を結びつけた。フランシス・ベーコンには写真のリアリズムはない、ゲルハルト・リヒターには表現主義的なところがない。ただ、デュマスだけが写真のリアリズムと絵画の表現主義の総合に成功したというわけだ。
 だからといって、デュマスがベーコンやリヒターよりも優れているといっているわけではない。デュマスのリアリズムと表現主義の総合は、ただ絵画の表層的なところでやっているだけで、絵画の内在的な問題(絵画の三層構造や形式のこと)に迫っているわけではない。写真のリアリズムは被写体のリアリズムであり、被写体は図像の外に存在する。また、表現主義が表現するという作者の内面も、言うまでもないが、作品の外部にあるものだ。そういう意味では、写実主義も表現主義も誇張されれば、どちらも皮相で退屈なものにならざるを得ない。
 デュマスの絵は、リアリズムよりも表現主義が誇張されている。ムンクの通俗性の一歩手前だが、かろうじて写真のリアリズムで救われている。また、デュマスが有名な写真家や音楽家とコラボレーションをするのは、自分の作品が単なる主観的な感情の吐露ではないことをアピールするためだ。荒木経惟は女性蔑視的なポルノグラフィーを美的女性崇拝だと言い張って、まんまとフェミニストの追求を逃れた写真家だし、坂本龍一も昔風に言えばアンガジェしている知識人だから、この展覧はインスタレーションというよりも、サロンなのだ。ムンクの《叫び》がサロンに「世紀末の不安」の話題を提供したように、デュマスはジェンダーや人種、セクシュアリティーなどの現代的話題を提供する。
 そんな中で《教師》は、誇張という欠点を免れている。表現主義的要素と写真のスナップ的リアリズムに節度があって、見ていて実に気持ちが良い。実物は見ていないがたぶんこの絵には絵画を見ることの本来の楽しみがあるのではないか。
 それから、これを書いている途中、たまたま新日曜美術館のアートシーンを見たら、またもデュマスの《ブロークン・ホワイト》のエクスタシーの表情をアップで映し、アナウンサーが「どう見るかは、見る人それぞれにゆだねられている」といっていたが、これじゃ、そのうち荒木経惟の女性性器のクローズ・アップ写真を映して、「どうみるかは、見る人それぞれにゆだねられています」とか言い出すのではないかと心配だ。視聴料支払いを拒否するぞ。 
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2007.06.12[Tue] Post 20:43  CO:0  TB:0  -Marlene Dumas  Top▲

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