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『上野の森美術館大賞展』 佐藤英行《地鳴り》  3・11と美術

『上野の森美術館大賞』が佐藤英行の《地鳴り》に授与された。「3・11」が主題だ。

東日本大震災から一年が経って、あの出来事は自分にとって何だったのかアーティストたちがあらためて問うている。同じ美術館で3月に開催されたVOCA展の大賞も津波を連想させる鈴木星亜の《絵が見る世界11_03》だった。

また、カタールの村上隆展『Murakami-Ego』について、東浩紀が『五百羅漢』は、DOB君や花とは違って、メッセージ性があって村上隆の新境地だと賞賛した。もちろん「3・11」を踏まえてのことだ。(

さらに、芸術上の問を発したのは三瀦末雄だ。 彼は東京新聞(8/19)に『3・11後の現代アーティストたち』を寄稿して、主題ではなく、3・11の後に絵を描くことの意味をアーティストに問うている。三瀦氏がここで問いかけている作家たちは、誰一人直接地震や津波を描いてはいない。(

他にもネットや新聞に「3・11」とは芸術にとって何であったかの話題が取り上げられていたけれども、私が知る限りストレートに津波を描いたものは佐藤英行の《地鳴り》ぐらいのもだ。しかも、佐藤英行は大賞を受賞している。この《上野の森美術館大賞展》がどんな公募展なのか知らないが、まさか、イラストやポスター展ではないのだから、主題が理由で大賞を授与したわけではないだろう。作者の受賞コメントを上野の森美術館のHPから引用する。

昨年2011年は東日本大震災大津波で日本中が悲しみに暮れた一年でした。このニュースはテレビ新聞等で報道されない日はありませんでした。私の脳裏にもあの津波の恐ろしさが焼きついて、画家として出来ることは、この歴史的な出来事を子孫に絵画として残すことだと思い制作に入りました。
この作品はカメラで撮えた真実と違った自分の感じた津波の恐ろしさを絵画として表現したものです。場所などの設定はなく東日本全体を凝縮表現しました。一番苦労したことは記録画的悲惨な光景だけでなく、絵画としての美しさをどう表現するかが難しいことでした。


受賞の言葉としては型通りである。津波を主題に選んだのは「歴史的な出来事を子孫に伝えたい」からだが、描きたかったのは主題ではなく、「絵画としての美しさ」だったと言っている。それはそうだ、津波の映像記録なら事故後すぐにアップされたYoutubeの動画に敵わない。美しさだって、盛り上がり町を飲み込み砕け散る水の奔流の「美しさ」は動画に及ばない。

それなら「絵画の美しさ」とはなんだろう。ポストモダンの廃墟の美学だろうか。いや、そんなものはこの絵にはない。描かれた対象の美しさではなく、線や色や形などのフォーム、あるいは構図や奥行きや空間の面白さのことだろうか。確かに壊れたり流された家屋や建造物が線遠近法の秩序に反抗しているようにも見える。しかし、すべては遠景中景近景の中に収まっている。

この絵を最初に見たときの印象は「悲惨な光景」というより既視感である。どこか東北の公立の図書館のホールの壁に掛けてあるこの絵を見ている自分を思い出しているような既視感だ。もちろん、この絵に描かれている光景はすでにYoutubeで見た光景だ。しかし既視感は、この絵の描き方がひどく古めかしい油絵の技法で、懐かしい昭和初期の油絵を思い出させるためだ。

もちろん下手だと言っているわけではない。街並み侵入する波の白さと、煙突や屋根の黒の対比が一見雑に見えるタッチながら、繊細に描かれている。油絵の筆さばきが巧みであるだけに、それだけ一層古めかしく見えるのだ。

藤枝晃雄は『芸術理論の現在』に収められた『芸術を求めて』の中で、芸術が変換を遂げようとするときの「未視感」について述べている。単に描かれた対象や情景が見慣れぬものであったり、奇妙なものであったりするものは、見るにつれて分かりやすいものになる。それに対して芸術表現自体が変換を遂げようとしている作品は捉えがたい不可解さを持つゆえに異様に感じられ、常識的な美醜を超えているゆえに価値判断はむずかしい。芸術の新しさとは、すぐに既視感に変わってしまう主題の新しさではなく、芸術表現の未視感を志向するものだと藤枝晃雄は言う。

佐藤英行の《地鳴り》は主題だけではなく、芸術表現もまた既視感に捕らえられている。被災地の人々は津波を思い出させるものには拒否の気持ちが強いそうだが、この作品が被災地の公共の場所に掛けられることがあるのだろうか。











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2012.05.04[Fri] Post 23:05  CO:0  TB:1  佐藤英行  Top▲

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