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ART TOUCH 絵画と映画と小説と
もとは美術展評のブログ 絵画と映画と小説と、そして哲学を少々
−有馬かおる
有馬かおる『マイクロポップの時代:夏の扉』水戸芸術館
有馬かおるの新聞紙に描いた絵は便所の落書きである。
と言っても、褒めているのではなく、けなしているのだ。有馬かおる自身が芸術の本質は落書きだと言っているのだから、便所の落書きこそ落書きの王道だと、間違って喜ぶといけないから、あらかじめ言っておく。
近頃の落書きは壁や塀にスプレーで描くが、昔は便所のかべに鉛筆で描くのが普通だった。有馬の描いた性器むき出しの絵を見たら、汲み取り便所の臭いがして、一瞬懐かしい感じがした。それに新聞紙は便所の落とし紙として使っていたのだ。
こんな絵についてわざわざ触れなくてもいいのだが、便所の落書きまでアートだと言い出すのを黙って見過ごすわけにはいかない。以前、森村泰昌のポルノグラフィーをジェンダーだ、多文化主義だ、美術史の脱構築だといってアートに仕立てあげた美術評論家がいたが、こんどは便所の落書きをアートにしようというのだろうか。
その美術評論家の一人が、マイクロポップという聞き慣れない言葉を作った松井みどりだ。正直言うと、松井みどりの言っていることはよくわからない。椹木野衣の『日本・現代・美術』も分からなかったが、それに輪を掛けて分からない。ポストモダンのキーワードというよりも現代用語辞典の流行語を寄せ集めて連想妄想逞しく作り上げたしろもの、とてもじゃないが手に負えない。それでも、周縁文化とかマイナーとか、十分な道具がない者が手近なもので間に合わせる姿勢(これってレヴィ・ストロースのブリコラージュじゃないのか)というところは、便所の落書きに近いかもしれない。
ちり紙がないから新聞紙で尻を拭くのとおなじように、画用紙ではなく新聞紙に描くのは、それはそれで間に合わせにちがいない。手早く鉛筆で描かれた落書きが油絵とは違って周縁的であるということも分からないではない。しかし、それがいったいどうしたというのだろう。周縁であろうが中心であろうが、つまらない作品はつまらないのであり、千住博の滝の絵も便所の落書きも、つまらないものはつまらないのだ。
もちろんつまらないと言っても、千住の滝の絵はそれなりに洗練されているので、逆に、文学的思想的な言説を適用しにくいのに比べ、有馬かおるの落書きは、落書き特有のメッセージ性があり、そのうえ詞書きもあって、いろいろ理屈がつけやすい。たとえば、《ムンクはさけべ オレはがまんする》は、股間の一物を勃起させた裸の男が腰をおろし、その左の足首が鎖に繋がれている。詞書きも含めて便所の落書きそのままの絵なのだが、こういった絵が、松井みどりの手にかかると、「内面世界の神話を媒介するドローイング」だとか、「外界の圧力に対して内面の自由を守る庵のような絵画空間」だとか「しりあがり寿のような、哲学的なアンダーグラウンドの系譜」(「マイクロポップの時代」PARCO出版P148)ということになる。
アウト・サイダーのつまらぬ絵画を精神科医が業界用語で解説する美術評論があるのだから、便所の落書きを現代用語で解説したってかまわないし、社会病理として分析することだってできるだろう。しかし、それがいったい作品の良し悪しとどう関係するというのだろうか。
「島袋道浩」につづく
2007.05.02[Wed] Post 00:18
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有馬かおる
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