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もとは美術展評のブログ 絵画と映画と小説と、そして哲学を少々

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『没後120年 ゴッホ展』 国立新美術館★★★★

英語の副題“The adventure of becoming an artist”が示すとおり、ゴッホの画歴を6つに分けて展示してある。

ゴッホの技法の変化や発展が、影響を受けた画家の作品やゴッホの習作や模写を並べて、分かりやすく展示してあった。これまでのゴッホ展のなかで一番優れた企画だったような気がする。ゴッホの技法についてはカタログに任せるとして、面白いと思った作品を挙げておく。

展示室Ⅰの最初に二枚の絵が並べてある。最初期の《秋のポプラ並木》(1884年)と最晩年の《曇り空の下の積み藁》(1890年)である。後の方は我々がよく知っている絵具の乾かないうちに短い筆触で塗り重ねていく印象派風の作品である。もちろんゴッホらしい絵は後者のなのだが、どういうわけか《秋のポプラ並木》に惹きつけられた。

よくよく見ると、影の向きか違うのだ。並木と橋の欄干と人物の影の方向が違うのは、たぶん、時間とともに太陽が西に傾いたからだろう。ホックニーにも、釣人の影の方向が異なる絵がある。ホックニーはキュビスムが空間の多視点なら、自分のは時間の多視点だというようなことを言っていた。

《秋のポプラ並木》には時間の流れがあるということになるけれど、。それはともかく、並木の影に柵があるのだが、並木には柵が描かれていないのも可笑しい。この絵がどこか気持ちの良さを与えるのは、ポプラの木立の線が微妙にズレていて、それが遠近法の奥行きの中に繰り返されているのがなんとも言えない心地良いリズム感を与えるからだ。

また、並木の手前に橋を渡る修道尼がいて(?)、並木の突き当たりに家があって、その家が人の顔に見える。なんか、突然名画鑑賞みたいになったけれど、ゴッホをフォーマリズムの観点から批評するだけの知識が私には欠けているし、今、カタログの写真を見ても、展覧会で見た感動はよみがえってこない。

忘れないうちに印象を書いておけば、ゴッホは風景画がとても良いということだ。《秋のポプラ並木》もそうなのだが、ゴッホの風景画には、どうもうまい言葉が浮かんでこないから、しかたなく使うが、ゴッホの風景画には「いやし」の効果があるような気がする。見ていると心が休まる。

小林秀雄のゴッホとは別のゴッホがいる。このゴッホに気づいたのは、今回のゴッホ展にも来ている《サン=レミの療養院の庭》をはじめて見たときだ。(注1) 庭の花盛りの樹木の間に明るい草地が広がり、その向こうに木々の幹が見える。木々の青い陰の中に白いベンチがあり、小道が右下の隅から左上のほうに伸びている。草の黒い線、曲がった木の幹の繰り返し、赤や白や黄色の花と緑の葉、そしてその間に見える青い空が短い筆触で描かれている。われわれの目は、木立の間に見える明るい草地とその向こうに小さく見える立木に魅惑される。

他の「癒しの」風景画を挙げておくと、《ヒバリの飛び立つ麦畑》《糸杉に囲まれた果樹園》《サント=マリ=ド=ラ=メールの風景》《緑のぶどう畑》などがあるけれど、一番、ゴッホの風景画の秘密がよくわかるのは、最晩年の《草むらの中の幹》(1890年)だ。

この風景画も近景中景遠景で出来ている。どうもゴッホは遠視ではないかと思われるほど、近景が大雑把に、遠景が細かく描かれている。上にあげた風景画はどれもその傾向があるけれど、《草むらの中の幹》は草地のゆるやかな斜面に木の幹が左の二本の太いものから右上へ五六本並んでいる。キャンバスの上の縁に沿って、小道があり、白い花を咲かせた潅木が奥の方にみえる。樹木の上部の枝葉はどれもキャンバスの上の縁で切られている。このことが、小道からの斜面を奥のほうまでつづく下草の広がりをより魅力的なものにしている。

このゴッホの近景中景遠景の空間を見事に描いているのが《サント=マリ=ド=ラ=メールの風景》である。近景の乱雑に描かれた藪、中景のぶどう畑(?)の畝、そして遠景の城のある町、ぶどう畑と町の間に道があり、小さな人物が見える。道はやや右下がりになっており、広角レンズと望遠レンズを合わせたような不思議な空間を生み出している。

これ以上ゴッホの風景画の魅力を分析することは、カタログの写真では不可能だ。本物を見た時の感動が思い出せない。でも、ゴッホの「癒し」の魅力は遠視的な遠近法の空間と短い線描の筆触と色彩にあると、ひとまず言えるのではないか。

それから、蛇足だが、モネの展示作品《ヴェトゥイユ》は湖と教会のある町と丘を描いた平凡な構図の風景画なのだが、ゴッホ以外では、この展覧会でいちばん面白い作品だった。確かな理由はわからないけれど、近景中景遠景の処理が巧みである。



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2010.11.08[Mon] Post 23:36  CO:0  TB:0  ゴッホ  Top▲

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