ART TOUCH 絵画と映画と小説と

もとは美術展評のブログ 絵画と映画と小説と、そして哲学を少々

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--[--] Post --:--  CO:-  TB:-  スポンサー広告  Top▲

『小林正人 LOVE もっとひどい絵を  美しい絵 愛を口にする以上』① ShugoArts

hiromiyoshiiで泉太郎を見たあと、ShugoArtsの小林正人を見た。小林の名前は聞いたことがあるが、作品を見るのは初めてだ。

ギャラリーに入ったけれど、初めは何が展示してあるのか分からなかった。床においたままの作品もあり、まだ、準備中のように見えた。「ヘタうま」か「落書き」の類かとも思った。

ひととおり、足早に見た。どうもヘタウマでも落書きでもないようだ。金と銀の絵具を使っているのだが、ただの灰色と黄色にしかみえない。豪華でも悪趣味でもない。あきらかに意図的にやっている。

銀色や金色の絵具が、銀や金に見えるためには、金属の反射や布地の光沢でなければならない。小林の金と銀は、キャンバス地に擦りつけられ、引き伸ばされ、盛り上がっているだけで、図像は描かれていない。それでも、なんとなく、顔やヌードが見えるような気もする。

金属光沢の銀色一色に塗られた抽象画がある。木枠からはずされて、キャンバス地が波うっている。わたはどういうわけか、前の日に川村記念美術館で見たニューマンを思い出した。そして、小林正人を理解した。

これは一種のミニマリズムではないか。抽象表現主義はピクトリアル・イリュージョン(図像主題)を削っていって、最後はキャンバス表面ぎりぎりのところまで奥行きのイリュージョンが浅くなった。しかし、、オプティカル・イリュージョンは残る。グリーンバーグが白いキャンバスでも壁に掛ければ絵画になるといったように、平面なら、何も描かれていなくても、オプティカル・イリュージョンが現われる。

この最後に残ったイリュージョンをさらに消すために、四角い平面を組み合わせて立方体にしたのがジャッドのミニマリズムだ。立体は容易に知覚するだけのリテラルな物体になる。おなじように、岡崎乾二郎は、絵具を擦りつけた小さなゼロ号のキャンバスを並べて、観者が抽象画ではなく、リテラルな平たい立体を知覚するように展示する。

それに対して、小林は抽象画を木枠から外すことで、キャンバスの矩形を崩し、表面を波打たせる。すると、観者の見る位置によって、銀色に塗ったキャンバス表面の反射が変化するので、観者の知覚が作動し、イリュージョンが消え、リテラルなキャンバス地の事物性が現れてくる。

具象画のほうも同じように、リテラルな事物として、物質的な絵具が露呈するような仕掛けが施されている。もちろん、キャンバス地は木枠から外されているけれど、ひとまず、顔やヌードの主題が判別できる限り、ピクトリアル・イリュージョンがあり、リテラルな事物にはならない。

そこで、小林は、絵画の物質性を露呈させるために、主題を消すのではなく、主題を残して、何を描いてあるのか、かろうじて判るようにする。いわば、絵画を脱構築する。線がない。明暗差がない。色の境界がない。色彩のリアリズムがない。筆触がない。

そして、顔や人体の部品が似ていない。下手である。いや、下手というのとちょっと違う。ヘタウマや落書きは確かに下手だけれど、ちゃんと主題が描かれている。ただ、それがナチュラルではないというだけだ。ところが小林の絵は、下手とか上手いとかいうのではなく、そもそも顔やヌードの主題が描かれているのではなく、たとえば、壁の汚れやシミが人の顔や体に見えるように主題らしものが見えるだけなのだ。

下手な絵はいくら下手でも、絵が描かれているのだが、壁のシミが顔に見えても、それはあくまでもals obであり、本来的に見えるのは絵ではなく、壁のシミなのだ。この意味では、デ・クーニングの《女》のシリーズは「ヘタウマ」であり、「壁のシミ」ではない。

ここで、「壁のシミの逆説」が起こる。壁のシミがあたかも顔に見えることにより、すなわち顔のイリュージョンが汚れた壁の知覚を抑圧するのではなく、むしろ,汚れた壁の知覚を顕在化する。小林の《LOVE》は、キャンバス地を木枠から外して平面を歪めるとともに、顔や人は、あたかも顔や人に見えるだけで、本当は絵具の汚れなのだということで、この二つで、絵画のリテラルな事物性を現出させたのだ。

小林正人は、岡崎乾二郎が《ゼロサムネイル》でやったことを、まったく別の方法でやったわけだ。



つづく
スポンサーサイト
2010.11.04[Thu] Post 02:03  CO:0  TB:0  小林正人  Top▲

Log in*/RSS*】  Design 「AZ+」Plugin Template...  Page Top▲
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。