ART TOUCH 美術展評

久米宏のCAR TOUCHにならって、五つの項目に分け、5点法で美術展を評価します。美術展を楽しみながら、現代美術理論の理解を深めます。

橋下知事の文化行政

 朝日新聞に以下の記事が載った。

「橋下文化行政に物申す」――。大阪府の橋下徹知事と芸術を学ぶ学生20人が文化行政をめぐって語り合う会が26日、大阪市中央区の府公館であった。補助金削減で存続の危機にあるオーケストラや文化と行政の関係などについて、橋下知事が次々に質問を投げかけ、学生たちの意見に耳を傾けた。

集まったのは、公募で選ばれた18〜32歳の芸術系の大学生ら。補助金が削減される大阪センチュリー交響楽団については、「子どもの育成に力を入れているのだから必要」という声の一方、「根づいていない」と厳しい意見も。

橋下知事が「僕は学者や有識者に、需要がなくても守るべきものを守れと批判されているが、需要があろうがなかろうがお金をつぎ込むべきか」と問いかけると、「文化を費用対効果で考えるべきではない」との意見が出た。ただ、「需要がなければ消えるのが当然。弱肉強食だと思う」という声もあった。

最後は「残る文化と残らない文化の違いは、やっている人の必死さ。消えそうだからといって、行政が特定の何かに金をぶち込むべきじゃない。やっている人間がまず努力すべきだ」との持論を展開した橋下知事。「文化人と言われる人たちのしょうもない意見より、みなさんの意見は心に響く意見ばかりでありがたい」と語った。

橋下知事は会の後、報道陣に「すばらしい時間を共有できた。自分の文化行政論に確信を持った」と語った。                            (2008年7月26日asahi.com)

橋下知事は先に ゙「上方演芸資料館」(ワッハ上方)の移転一部廃止を決めたが、引き続き芸術への補助金削減をするらしい。ワッハ上方は 横山ノックが知事のときに作られたのだが、吉本興業のビルに高い家賃を払い、仲間うちで理事のポストを分け合うなど、税金を食い物にしていたのだから、これを廃止するのは誰でも思いつくだろう。しかし、高級な芸術の助成を削るというのは、橋下知事の改革もけっこう本物かもしれない。ワッハ上方のときは、既得権益を守ろうとする文化人が改革の邪魔をしたが、今回は文化人の意見を無視するというのもなかなかの戦法だ。それに芸術への補助金を削るのは経済学の原則にあっているのだ。


寄付や助成金がいかに芸術をゆがめているかは左の『金と芸術』にくわしく書かれている。著者は経済学者兼美術家だからこそ書けた本だろう。なぜ、芸術家が貧乏なのか知りたい人、とくにこれから芸術家になろうとする若い人は、この『金と芸術』を読むことをすすめる。

なお、朝日新聞が補助金削減反対の一方的な記事ではなく、橋下知事の考えも伝えているのはどうしたわけだろう。まさか公正な報道に目覚めたわけではないだろう。それとも、朝日の読者にはこれで「文化を弾圧する橋下知事」というメッセージが十分に伝わるのだろうか。
2008.07.28[Mon] Post 00:40  CO:0  TB:0  美術評論  Top▲

ロバート・ラウシェンバーグ死去

米ポップアートの先駆者で、「米国美術の巨人」といわれた美術家ロバート・ラウシェンバーグ氏が12日、フロリダ州キャプティバ島の自宅で心不全のため死去した。(YOMIURI ONLINE)

ラウシェンバーグの作品は原美術館や国立新美術館(たぶん)でみた。わたしにはコンバイン絵画が皆目わからない。クルト・シュヴィッタースのメルツ絵画と同じように一切のイリュージョンがない。無いのはイリュージョンだけではなく、象徴性もない。シュヴィッタースにはバランスや調和があるけれど、ラウシェンバーグにはそれもない。意図的にそうしたのなら反芸術なのだろう。しかし、デュシャンのような図像破壊の挑発もない。わたしにはとうてい理解しがたい作品だ。徹底的に無意味な立体コラージュだからコンバインなのだろうか。わたしに確かに言えるのは恐ろしく退屈な作品だというぐらいだ。

2008.05.16[Fri] Post 01:08  CO:0  TB:0  美術評論  Top▲

松井冬子と上野千鶴子

あんまりだからメモだけしておく。
ほかでもない、NHK ETV特集"醜いもの 美しいこと〜日本画家 松井冬子の試み〜"のことだ。おくればせながら、YouTubeで見たが、予想以上に酷いできだ。いったいNHKのディレクターはどうしたというのだ。自暴自棄になったのか。

対談相手は上野千鶴子氏(東京大学大学院社会学部教授)、山下裕二氏(明治学院大学文学部教授)、布施英利氏(東京芸術大学准教授)で、三人とも、松井芸術の神髄を聞き出そうとするのだが、そのとってつけたような質問と、とんちんかんな応答で、お気の毒に三人はバカ丸出し状態だ。

圧巻は上野千鶴子氏との対談だろう。なんでこんな人選をしたのか不明だが、たぶんジェンダー理論でマッチョたちをバッサバッサ斬ってもらうためだろう。ジェンダー理論というのは文化相対主義のヴァリエーションで、それを絵画や映像に応用したのが表象文化論だ。簡単に言えば深読みして、何でもかんでも性差別に結びつけるというのだから、屁理屈とレトリックのさえが大切だ。でも、上野先生、ぜんぜんさえていない。

オーディヤンス、オーディヤンスというのでなんか関西弁でいってるのかと思ったら、どうもaudienceのことらしい(たんなる推測)。もっとほかのフランス直輸入のキーワードをちりばめた方がいいのに、これじゃ松井冬子のナルシシズムと似たようなものだ。それより、ジェンダーと言ったあとに、脱ジェンダーと言ってみたり、いったいどっちなんだといいたいが、たぶん文化相対主義だから、どっちでもかまわないのだろう。

松井氏の美貌にたいして上野氏の知性と言いたいのだろうが、そうは問屋がおろさない。二人の知性は似たり寄ったり、スピーカーのそばにマイクロフォンを置いたように、お互いの**が増幅して困った事態に陥ってる。いつのまにか上野氏はカウンセラーになって、自分の理論どおりに松井氏に答えさせようと、「その答えじゃ満足できない」と言い出す始末。上野氏はメモをみながら質問しているのだから、あらかじめ打ち合わせをしているはずだが、松井氏そんなことはすっかり忘れている風で、上野氏の質問が理解できないのか意味不明の答、二人の会話はいっこうにかみ合わない。上野氏も臨機応変に質問すればいいのだが、ジェンダー理論は敵をののしるには便利でも、味方を理解するのは不得意のようだ。

とにかく上野氏の出した診断は「自傷系アート」だそうだ。近頃のアートにはそういうジャンルがあるらしい。この言葉を聞いて、『GOTH−ゴス−』(横浜美術館)展で見たピュ〜ぴるの作品を思い出した。これは性同一性障害者のピュ〜ぴるのSRS手術や自傷行為風の変装化粧などを写した写真作品で、自分のアイデンティティを回復する物語なのだろうが、同じ意味で、松井氏の内臓絵画にも自傷的なナルシズムの側面があるのだろう。

そう思うのは、記事にコメントをくれた人のなかに、松井氏の絵を見て癒されたという女性が多くいたからだ。たぶんある種の人々にとって、松井氏の絵は「癒し系」なのだ。クリスチャン・ラッセンのイルカの絵を見て癒される人がいるように、松井氏の内臓むき出しの自傷系アートを見て癒される人もいる。そういう目的で絵を見るひともいるだろうが、私には気持ち悪いだけだ。

自傷系が癒し系の変種であることは、手近の精神分析の本をよんでください。
それから、語りの吉行和子(女優)の声は岸田今日子の声みたいでやりすぎではないか。

『松井冬子の自画像』へ
2008.04.28[Mon] Post 18:40  CO:5  TB:0  美術評論  Top▲

ETV特集と新日曜美術館

昨日、松井のページにアクセスが増え、夜の10時になったら、アクセス数が突然四桁の数字になった。松井で検索したらNHKのETVで松井の番組を放映中とわかった。ひとはテレビを見ながらウェブ検索をすることもわかった。炎上するのではないかと心配したが、コメントはあまりなく安心した。NHKのプロデューサーも今度は知的美人に撮ってあげたのかしら。

夕方新日曜美術館でモディリアニをやっていたが、ゲストは岸恵子だった。でも、岸恵子って壇ふみとキャラがかぶっていて、なんかふたりで張り合っているような気がして、笑えた。ついでに茂木健一郎をまぜて三人でやったら、もっと笑えたろうに。

そうそう忘れていました。NHK ETV特集のタイトルは"醜いもの 美しいこと〜日本画家 松井冬子の試み〜"だそうです。
〈もの〉と〈こと〉ってプレ・モダンのパラダイムみたいで、なんか腰がひけてないかぁ。
2008.04.21[Mon] Post 18:00  CO:1  TB:0  美術評論  Top▲
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